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大阪地方裁判所 昭和38年(ワ)5411号 判決

原告 山内節子

右代理人弁護士 樺島益生

被告 飛田石油株式会社

右代表取締役 飛田三郎

主文

被告は原告に対し、金一、〇一一、〇一〇円およびこれに対する昭和三八年一二月三〇日より完済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決第一項は金一〇〇、〇〇〇円の担保を条件として、かりに執行することができる。

ただし、被告が金五〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。

事実

第一、本訴申立

「主文第一、二、三項同旨」

第二、争いない事実

一、本件事故の発生と原告の受傷。

発生時  昭和三七年九月四日午前一二時一五分頃

発生地  大阪市都島区都島本通り三丁目一〇〇番地先道路上五叉路附近横断歩行路上

加害車  タンクローリー車、六二年式いすず、京八す〇四二六号被告所有

運転者  訴外田中日出夫(被告勤務)

態様   訴外人は東より西進し右交叉点にさしかかった際、車の進行方向の信号は赤であるのに、折柄前方横断歩行路を南から北へ青信号に従って横断中の原告ほか数名の歩行者のむれに突入、原告をその場に跳ねとばし、転倒させて受傷せしめた。

傷害   左側頭部の骨に達する挫創(頭蓋内出血)

左鎖骨々折

口腔挫創(右門歯二本欠損)

右手挫傷

二、帰責事由

根拠   自動車損害賠償法第三条による運行者の責任

該当事実 被告はガソリン卸小売商でガソリンスタンドを経営しているところ、訴外人に大阪桜島までガソリン引取に赴かせた途次、事故惹起をみたものである。

第三、争点

一、原告の主張

(一)  訴外人の過失

この事故は訴外人が信号を無視し、前方注視の義務を怠った過失によるものである。

(二)  原告の蒙った損害

別紙1損害内訳表のとおり。

二、被告の主張

訴外人の過失、損害額を争う。

第四、証拠

別紙2証拠一覧表のとおり。

理由

第五、争点に対する判断

本件右証拠を綜合すると、原告主張の事実はすべてこれを認めることができ、被告は原告に対し別紙損害内訳表のとおり合計金一、〇一一、〇一〇円の損害賠償債務を負担していることが明かである。なお損害額について留意すべき認定事実は前掲第二の事実のほか左の諸点である。

一、休養による損害について。

原告は紙器製造会社の役員である山内兼喜の妻として、家事をあずかる者であるが、特に小学校三年の長女をかしらとしてさらに小学校一年、二才の幼児三名をかかえていたので、入院中より退院当初まで家事手伝いが必要でその出費を要した。

二、慰藉料の算定について。

(一)  受傷の程度

(1)  事故時原告は意識を失い、入院後の手当によって漸く気がついたほどの激しい衝撃であった。

(2)  頭部裂傷を三針ぬい、左鎖骨々折についても、前後三ヶ月近くギブスをはめていなければならず、またその治療に骨盤の一部移植の要を生じ、また前歯二本の治療など、その間の苦痛はひととおりではなかった。

(3)  入院三ヶ月余、その後通院九ヶ月余の施療を要した。

(二)  後遺症

(1)  左腕の運動が不全であり、回復の見込は不明である。

(2)  左鎖骨の傷跡、および右手術のため切りとった骨盤はいまもなお疼傷を残している。

(3)  受傷により記憶力が減退し、疲労時、生理時には以前経験しなかった顕著な頭痛におそわれている。

(三)  その他の事情について。

(1)  原告は事故当時三六才であり、旧制夕日丘高女卒業、前記のとおり、幼児三名の母としてその監護養育の責を負う者である。

(2)  後遺症のため寝具のあげおろしなど家事の遂行も不自由で夫の補助が必要であり、夫婦のいとなみにも差障りを生じている。

右各事実を併合すると慰藉料は少くとも九〇万円を下らない額が相当である。

第六、結び

すると、右損害額および損害発生後であることの明かな昭和三八年一二月三〇日以降民法所定の割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求はすべて理由がある。訴訟費用は敗訴者である被告の負担とし、仮執行に関する宣言を付した。

(裁判官 舟本信光)

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